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病院で働いているなら把握しておきたい著作権基礎〜事例を交えて〜

こんにちは、オペリブログにアクセスいただき、ありがとうございます。

OPEReのコサコです。

 

OPEReが2023年12月20日に主催した、病院管理職向けプロフェッショナルウェビナー(略して、“プロウェビ”)と称して、「そのポスターや動画は大丈夫?!

~病院のための著作権基礎知識~」ウェビナー弁護士の南谷健太先生をお招きして開催しました。本ブログは、ウェビナーの内容をまとめたものです

※内容は2023年12月20日時点のものであり、情報を参考にする際は最新情報をご確認ください。

 



著作権の知識ってどんなときに必要なの?


著作権は、イラストや曲などを作り出した際に発生する権利であることから、パンフレットや広報物を作成する場合には著作権法上のリスクが無いかをチェックすることが重要です。また、場合によっては、著作権以外の法的な問題にも気を付ける必要があります。具体的なケースを用いながら、どのような場面でどのような点に気を付ければよいのか見ていきましょう。

 


事例1:院内で写真撮影した際に、患者さんが写ってしまったとき


 あなたはA病院の広報担当者です。あなたは病院が発行している広報誌に普段の病院の様子を伝えてイメージアップを図ろうと院内の様子を写真撮影し、広報誌に掲載しようと考えています。周囲にこの案を伝えたところ「患者さんが写ってしまうと、法律上のリスクがあるのではないか?」との反応がありましたが、具体的にどのような法律上のリスクがあるのでしょうか?また、患者さんの顔写真が映っていなければ、掲載しても法律上のリスクは小さいといえるでしょうか?



  

A病院の広報担当者になった場合、主に以下の法律上のポイントを検討する必要があります。

 

① 著作権


著作権とは、著作者に対して付与される法律上の権利で、自身の制作した著作物を無断で複製・翻訳・上演・公衆送信等されない権利を指します。

著作権は、様々な内容の権利の集まりで、大きく分けると以下の3つに分類されます。

  • 著作財産権(複製や上映など、著作物の経済的な利用に関する権利)

  • 著作者人格権(著作物の公表や氏名の表示など、著作者の人格的な利益を保護ずるための権利)

  • 著作隣接権(俳優やレコード会社、テレビ局など、著作物の創造や伝達に関与する者が、その貢献に対して与えられる権利)に分類されます。

 

著作権は、保護される期間が決まっており、著作物の創作と同時に発生し、原則として著作者の死後70年間存続します。特許権のように申請等の手続きを行わなくとも自動的に発生する権利である点に注意する必要があります。

 

著作権は、「著作物」に発生する権利であるため、本事例の場合に何が著作物かを検討する必要があります。


著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(著作権法第2条1項1号)をいいます。何が著作物に該当するかは、この定義に照らしてケースバイケースで判断されます。著作物ではないと判断されやすいものとして、歴史上の事実(思想又は感情を表現した物)、アイデア(表現物ではない)、短いフレーズ(創作的ではない)などが挙げられます。


今回のケースですと、大きく

 ①写真に写った対象が著作物か  ②写真そのものが著作物か という2つの点が問題となります。


①について、患者さんの顔そのものは著作物ではないですが、それ以外に写り込んだ物(イラストなど)が著作物ではないか確認する必要があります。

②について、写真は著作物に該当しますが、病院の仕事として撮影した場合、基本的に著作権は病院に帰属します。

 

以上から、このケースにおける著作権法上のポイントとしては、著作物と判断されるようなものが撮影した写真に写り込んでいないかをチェックすることが重要となります。著作物性の判断は難しい場合もあるので、迷う場合には弁護士などの専門家に相談しつつ検討すると良いでしょう。あるいは、イラスト等の映り込みがある場合、写真の差し替えや、サイズの変更、写り込んだ物へぼかしを入れるといった対応を行うことが考えられます。


 

② 肖像権


著作権とは異なりますが、本件のように写真を撮影・利用する場合に問題となる権利として、肖像権があります。

肖像権とは、自分の容貌をみだりに撮影・公表されない権利です。


問題となり得るのは、人の容貌を写真やビデオ、似顔絵などで勝手に利用された場合となります。所蔵権違反については、撮影・公開されることで被写体の個人が被る精神的苦痛が社会通念上受入れるべき限度を超えるか否かが基準にされ、個別具体的な事情ごとに判断されます。


今回のケースですと、患者さんは自身の通院を知られたくないと考えている場合があり、勝手に公表されることによって大きな精神的苦痛を被る可能性がありますので、肖像権違反と判断されてしまう可能性がある事例といえます。

そのため、患者さんの同意を取るほか、要望が明らかにならないようにぼかしを入れたり顔が映らないようにするといった対応を行うと良いでしょう。

 

なお、仮に写り込んでいる人物が著名人の場合、パブリシティ権という別の権利が問題となる点にも注意する必要があります。パブリシティ権とは、有名人の肖像や名声などの利用によって得られる財産的価値を保護する権利です。例えば、本人の許可なく有名人の写真を利用して病院の宣伝やブランディングに使う場合には、パブリシティ権の違反が問題になる可能性があります。


 

③ その他気を付けておくべきポイント


患者さんの許可なく要望を撮影してパンフレットに掲載することは、肖像権だけではなくプライバシー権を侵害する可能性もあります。プライバシー権は、私事をみだりに公開されないことを保障する権利であり、その対象は容貌に限りません。


具体的には、

  1. 私生活上の事実またはそれらしく受け取られるおそれのある事柄であること

  2. 一般人の感受性を基準にして当該私人の立場に立った場合、公開を欲しないであろうと認められる事柄であること

  3. 一般の人々に未だ知られていない事柄であること

の3つの要件を満たした場合にプライバシー権侵害が成立するとされています。


本件でも、患者さんの中には、通院の事実を周囲に打ち明けておらず知られたくない人もいるでしょうから、写真の公開がプライバシー権侵害に該当する可能性があります。

 

以上から、院内で撮影した写真にイラストや患者さんの顔が写った状態の写真を広報誌に掲載する場合は、著作権、肖像権やプライバシー権を侵害する可能性があります。イラスト・顔写真の差替えや患者さんからの事前承諾を得た撮影等の対応を取るのが妥当な判断を言えそうです。

 


事例2:大人気アニメキャラを使ったポスター作成

 

 あなたはBクリニックで病院事務をしています。ある時、院長から「インフルエンザ予防接種のためのポスターを作ろう。いったんたたき台を作ってみて。」と言われました。単に予防接種の紹介をするだけだと訴求力が無いと考えたあなたは、大人気アニメのキャラクターのイラストをインターネット上で見つけて、背景等を加工してうまくチラシになじむようにしました。出来上がったチラシ案を院長に見せたところ「これって著作権的に問題ないのかな?」と言われましたが、著作権侵害になるのでしょうか?

 


Bクリニックの担当事務として検討するべき著作権法上のポイントは、以下のとおりです。

 

アニメキャラクターのイラストは基本的に著作物性が認められるので、無断で使用することは著作権侵害となる可能性が高いです。

 

保護期間は70年とされています(つい先日、ミッキーマウスの登場する一部作品について、著作権の保護期間が終了したことが話題になりました)ので、保護期間が経過していない可能性も高いのではないかと思います。

 

例外的に著作権侵害とならない場合が著作権法上定められています(権利制限規定)が、今回の場合、そのうちの「引用」に該当しないかが問題となります。「引用」に該当するかはケースバイケースですが、今回のような事例の場合、コンテンツの主従関係の「従」として掲載し、かつ引用する必要性が高い、というのは厳しいように思われますので、利用は控えるべきでしょう。仮に「引用」として整理できる場合は、出所(出典)を明示するのを忘れないようにしましょう。

 

代替案としては、フリー素材の利用が考えられますが、フリー素材を掲載するサイトによって利用規約が異なるため、できるだけ大きな信頼できるサイトを利用し、「商用利用可能」で、フリー素材が「第三者の権利を含んでいないか」を確認する必要があります。また素材に改変を加えたい場合、「改変や組み合わせの許可」を確認するとともに、「著作者への帰属(クレジット表示)の要否」まで確認する必要があります。



病院で働くうえで何に気をつけるべきなのか


著作権法や肖像権などの問題は、どうしても法律用語が出てくるため、理解し実践するのはなかなか難しいでしょう。白黒つけるのが難しい場合には弁護士等の専門家に相談することも選択肢に入れると良いかと思いますが、あらかじめ以下のような大枠のイメージをつかんでおくことは、相談時に役立つでしょう。


院内で写真撮影するとき

  • 院内で撮影した写真に顔が写ってない状態の写真を広報誌に掲載する場合は、イラスト等の著作物の映り込みに注意する必要がある。患者さんの顔が映っている場合は、肖像権の侵害の可能性があるが、顔が映っていない場合でもプライバシー権を侵害する可能性があるため、できる限り患者さんの許可を得て容貌を撮影するよう気を付ける。

  • 患者さんを撮影する必要がある場合、承諾書などを用意して、広報誌への掲載許可を患者さんから得ておくとトラブル回避につながる。


イラストをポスターなどに挿入したいとき

  • イラストは著作物であるため、著作権侵害のリスクがあるのではないか、という問題意識を持っておく。

  • 事前にイラスト作成者の許可を得ることは難しいことも多く、時間・コストがかかる可能性があるため、できるだけ信頼できるサイトのフリー素材を利用することが考えられる。

  • フリー素材サイトの素材を利用する場合、使用に当たって商用利用が可能であるか、素材が第三者の権利を含んでいないか、使用する場合における著作者への帰属表示(クレジット表示)の要否といった諸条件を確認することが重要。なお、改変や他イラストとの組み合わせを検討している場合には、その許可が必要になる可能性もあるので、その点も確認する。


知らず知らずのうちに侵害している可能性があるのが著作権。裁判等の紛争になれば、時間もお金も消費し、病院の評判(レピュテーション)にも影響を及ぼします。


備えあれば憂いなし。著作権に関わる領域を再度見直し、職員の方が著作権を侵害しないような業務プロセスを確認してみましょう。


(執筆協力:南谷 健太 弁護士 )



最後に…

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